第94章 【ドウカシアワセニ】
「あ、あのさ……オレ、ずっと、芽衣子ちゃんを抱きながら、頭ん中で小宮山と比べてた……そんで小宮山を想像して……その……すげー、最低なんだけど……」
声にできない私の気持ちが伝わったのか、英二くんが気まずそうな顔でそう切り出す。
英二くんが……鳴海さんを抱きながら、私を想像して……?
その思いがけない言葉に驚いて、でも嬉しくて、だけど素直に喜んでいいのかな?って戸惑って……
だって、もし英二くんが私との行為の最中、他の人のことを考えてたら、そんなのすごく辛すぎる……
でも都合がいい話だけど、そんなに私のことを恋しく想ってくれていたと思うと、やっぱり嬉しくて……
「……どうしよう……英二くん、私、凄く嬉しい……やっぱり、性格、悪いですよね……?」
にやけてしまう頬をおさえて、チラリと英二くんの顔を見上げると、そんな私に英二くんは、小宮山が性格悪いなら、オレなんてどうすんのさ?、そう言って苦笑いをする。
「あ、でも、私と一緒にいる時は、他の女の人のことなんか、考えないでくださいね……?」
「あったり前じゃん!オレ、一生、小宮山とダブルス組むって決めてんだかんな!オレはそうと決めたら一途なの!」
……って、オレが言っても説得力ないかもしんないけどさ、なんて続ける英二くんの言葉に、ふるふると大きく首を横に振る。
英二くんにまた一生の約束を言葉にしてもらえたことの喜びと、それを掛け替えのないテニスのダブルスに例えてもらえた幸せで、自然と涙があふれてくる。
でも、ネコ丸ごと優しく抱きしめてもらえた英二くんの腕の中で、今度は彼が諦めてしまったテニスのことが、頭から離れなくて……