第92章 【ケツイトマヨイ】
「本当はさ、大学部に行きたい気持ちもあんだけどさ……でも、家族に負担、かけたくないんだ……」
そう呟いた英二くんの横顔を真っ直ぐに見つめる。
遠い空を見つめる英二くんの瞳から溢れるのは、迷いのない強い意志……
きっと、御両親は英二くんの大学費用なんて、ちっとも負担になんて感じないだろうけど……
そんなこと、英二くんだって分かっていて、それでもそう決めたんだろうから……
私は、英二くんが決めたことなら、それが正解だと思っているから……
「……小宮山のためにも、大卒の方がいいのは分かってんだけどさ……給料、全然違ってくるし……」
そう申し訳なさそうに私に視線をむける英二くんに黙って首を横に振る。
でもその分、早く経済力付けて迎えにいくからさ?、そう続ける英二くんの言葉に涙が滲む。
私との将来を真剣に考えて、悩んでくれるその気持ちだけで十分で……
そっと英二くんの肩に額を乗せる。
ギュッと繋がれた手を握りしめると、小宮山?、そう英二くんが少し戸惑って声をかける。
「だ、大丈夫だからさ!オレ、絶対、東京近郊で就職見つけるし!」
その私の様子に英二くんがニッと笑って顔をのぞき込む。
私が進路がバラバラになることで、不安になってると思ったのかな……?
もちろん、それも無いわけじゃ、ないけれど……
沸き起こる色々な感情……
感謝と喜び、それから、迷い……
英二くんが私に打ち明けてくれた事は嬉しい……
だけど、私は英二くんに言えないでいる……
私が内部進学じゃなくて、イギリス留学も視野に入れてるって言ったら、英二くんは反対するよね……?
セフレだったあの頃とは違うけど……
遠く離れていたって、気持ちはずっと、英二くんのすぐそばに居られるけど……
だけど……多分、英二くんはそれじゃ、ダメだから……
心の距離だけじゃなく……会いたい時にすぐ会える距離じゃなきゃ……きっと……