第92章 【ケツイトマヨイ】
「……英二くんは、遠距離とか……やっぱり考えられないですよね……?」
「へ?、あったり前じゃん!、オレ、会いたい時に会えなきゃ、絶対ヤダかんな!」
なんの迷いもなく発せられたその答え。
ですよね……、そう笑顔を作って英二くんを見上げる。
そうだよね……
やっぱり、英二くんを置いて遠いイギリスになんて行けない……
今なら、まだ、大丈夫……
お父さんにもお母さんにも、分かってもらえる時間がある……
でも私、英二くんのことがなかったら、迷わずイギリスに行ってたんじゃないの……?
「小宮山は、やっぱ、文学部にすんの?」
「……そうですね、外国文芸について専攻したいと思っています……」
心の中に燻る迷いを追い出すと、作った笑顔を本物に変えていく……
私は、いいの、英二くんさえいてくれたら、それでいいの……
ダメね、人間って、一つを手に入れると、どんどん欲深くなる……
「就職と進学でバラバラになるけどさ、でも休日はずっと一緒だかんな?、それまでも高校の間はずーっと一緒にいるかんな?」
「……はい、ありがとうございます」
私の顔を覗き込んで、絶対だかんね?、そう何度も釘を刺す英二くんに、笑顔で何度も同意する。
ギュッと抱きしめられた英二くんの胸の中……
心地よい、大好きな、本当に大好きな……
「え、英二くん、苦しっ……」
「はにゃ、ご、ゴメン!、つい力、入っちゃった……」
可愛い英二くんのテヘペロ……
ふふっと笑って英二くんの肩にもう一度額を預ける……
それから、二人で空を眺める。
冷えた空気のなか見上げた秋空は、以前二人で見ていたころより一段と輝きを増していて、また次の段階へと季節を進めたことを教えてくれる。
季節は、もう初冬____