第92章 【ケツイトマヨイ】
あの時、確かに英二くんと目が合ったから、英二くんも私が聞いていたのは分かってると思うんだけど、あの後、恋人同士になってからも、英二くんは何も言ってくれなくて……
それを言ったら、私だって一切、何も自分の進路について英二くんに話してないんだけど……
高2の冬、普通の恋人同士なら、当然、お互いの進路について、話し合うことだってあるだろうけど……
やっぱり、私たちの関係って、普通の恋人同士には、なり切れないものが有るのかな……なんて、少しだけ寂しくなる。
だけど、やっぱり聞けないよね……
だって聞かなくても分かってるもの……
英二くんはご家族に対して並々ならぬ感謝をしていて、その分、心配や負担をかけたくないっていう想いが強いから、当然、遠慮だってあるのは分かっていて……
「……小宮山?」
英二くんの呼ぶ声で我に返る。
気がつくと英二くんが私の顔を覗き込んでいて、お姉さんはもうどこにも居なくなっていて、あ、えっと……?、そう戸惑ってしまうと、またなんか考えてたろー?、なんて言って英二くんが苦笑いをした。
「いいえ、あの、その……」
「行こ?、ネコ丸、待ってるよん?」
英二くんは笑顔で私に手を差し出していて、あ、はい……、そう頷きながら手を伸ばす。
ギュッと絡められた指に力が入ると、英二くんの笑顔は少し困ったものになって、小宮山にはちゃんと言わなきゃなー、そう言ってもう一方の指で頬をかいた。
いつもの東屋に差し掛かると、どちらかとも無く足を止める。
チラッと英二くんの顔を見ると、英二くんも私を見ていて、寄ってく?、そう聞いてくれるから、はい、なんて笑顔で頷いた。
東屋に足を踏み入れると、鮮明に思い出すあの時の記憶……
ここにくるのは、あの日、英二くんにここで振られて以来……
もう何年も前のことみたい……
そんなに日にちは経ってないはずなんだけど、それほどすごく懐かしく感じて……