第92章 【ケツイトマヨイ】
あとから思うと、この時、私は完全に英二くんの術中にハマってしまっていて……
だってそのお味噌汁の優しさに、お酒を飲まされたこととか、変な格好をさせられていたことなんて、どうでも良くなってしまっていて……
「どーう?、美味いー?」
「はい……とっても……」
英二くんは「そうだろー」そう得意げに笑うから、そんな英二くんのドヤ顔にもうドキドキが止まらなくて……
そんな私に、ん?、って笑顔で問いかける英二くんから、恥ずかしくて慌てて視線をそらした。
「あ、あの、ご家族の皆さんは……?」
「もうみんな仕事に行っちゃったよん、下のねーちゃんは大学だからまだ部屋にいるけど」
「やっぱり……どうして起こしてくれなかったんですか?、私、挨拶もしないで……」
いや、寝坊したのは私が悪いんだから、英二くんを責めるのは間違っているんだけれど……
でもせっかく皆さんと仲良くなれたのに、寝坊なんて呆れられたに違いなくて……
お礼だって言いたかったのに……、そう恨めしく思いながら英二くんを見上げると、大丈夫だって、みんな気にしてないからさ?、なんて宥められる。
それよりさ……、そう、英二くんが少し声のトーンを落としていうから、はい?、なんて不思議に思って顔を上げると、英二くんは頬を指でかきながら、気まずそうに私から視線をそらす。
「……大人になってもさ、オレと2人んとき以外は、酒、飲むのやめてくんない?」
私、本当に何をしたんだろう……、そんな英二くんのお願いに、はい、そうします、なんて頭を抱えながらため息をついた。
「ちょっと、なんかいい匂いする!なに?、味噌汁?」
突然、下のお姉さんがダイニングに入ってきたから、慌てて立ち上がり、おはようございます、そう挨拶する。
すみません、私、寝坊してしまって……、そう頭を下げるとお姉さんは大きな目を2度瞬きして、んなこと誰も気にしてないよー!、なんて大笑いするから、そう言ってもらえて、ほっと胸をなでおろす。