第92章 【ケツイトマヨイ】
洗面所を借りて身なりを整えると、それから少し考えて、カタカタと慌ただしい音がするキッチンの前に立つ。
おはようございます……そう恐る恐る覗き込むと、あ、小宮山、起きたー?、そう言ってコンロの前の英二くんが振り返った。
良かった、英二くんだ、そう誰がいるかドキドキだったから、心の底から安心する。
それと同時に、さっきのワイシャツとネコ耳のことを思い出し、英二くん!、何なんですか!?、そう前かがみで歩み寄った。
「痛ぁ……」
歩み寄ったは言いけれど、やっぱりまだまだ二日酔い継続中で、頭を抱えて蹲る。
小宮山!?、どったの?、そう驚いて駆け寄ってくれた英二くんに、どったの?、じゃないですよ……、そう言って頬を膨らませた。
「英二くんがお酒なんて飲ませるからじゃないですか……」
「ありゃ、やっぱ、二日酔い?」
「はい……おそらく……」
って、そうじゃなくて!、そう慌てて抗議しかけて、また痛たたと頭を抱える。
「……あの格好はなんなんですか?、英二くん、私、全然、覚えてなくて……いったい、私に何をさせたんですか!?」
「そ、そんなことより、小宮山、腹減ってない?、オレ、シジミの味噌汁作ってみたんだけど……」
あからさまに動揺をみせた英二くんに、話をごまかさないでください!、そう問い詰めてみたけれど、コンロからふわんと漂ってくる磯とお味噌の香りに、クンクンと思わず鼻を鳴らして動きを止める。
「どうする?、このまま食べる?、それとも雑炊にしたほういい?」
「あ、えっと……そのままでお願いします……」
食卓に座らされると、英二くんがシジミの味噌汁をよそってくれたから、フーっと冷ましてコクンと飲み込む。
久しぶりの英二くんの味……すごく美味しい……
ほうっとため息を一つ……
すっと身体中に染み込んでいく暖かな温もり……