第91章 【シアワセナヨル】
ゆっくりと小宮山から離れると、冷蔵庫を開けて覗き込む。
中から360mlの缶を2本とりだすと、1本のプルタブをプシュっと開けて、ほいっと小宮山に差し出した。
「……あ、あの……?」
「乾杯、また小宮山と恋人同士になれたお祝いだよん?」
戸惑いながら小宮山がその缶を手にすると、もう一方のプルタブも開けて、カンパーイと缶同士を軽くぶつける。
グラスじゃないからいい音は鳴らなくて、ゴンっとした鈍い手応えだったけど、満足してゴクゴクと喉に流し込む。
うまい!、そうクイッと拳で口を拭いながら笑うと、そんなオレの様子に小宮山も笑顔でコクンと口に含んだ。
「……って、英二くんの飲んでるそれ、よく見たらビールじゃないですか!」
「うわっ、しーっ!、みんなにバレるだろ〜!」
オレの手に握られている銀色の缶がビールだと気がついた小宮山が、驚いて大きい声を上げるから、慌てて人差し指を口に当ててそれを制する。
いつもは冷蔵庫から失敬すると、こっそり自分の部屋で飲んでいるけれど、今はいつ誰が来るかわからないダイニングで……
流石に見つかったらヤバいだろー、そう小声で言うと、小宮山は口を抑えながら「すみません」そう小さく謝る。
「って、違います!、ダメじゃないですか!、英二くん、まだ高校生なんですよ!」
「……小宮山だって、今、飲んだじゃん?、それ、ぱっと見ジュースみたいだけど、しっかりアルコール入ってるよん?」
そう、オレが小宮山に手渡したのは、上のねーちゃんの買い置きのカクテル。
ええー!、そう慌てて小宮山が手の中の缶に視線を移す。
「ほんとだ、これはお酒って書いてある!、ちょっと変わった味のオレンジジュースだと思ったら……なんてことするんですか!」
不本意ながら、法律違反をしてしまった……、そう頭を抱える小宮山に、そんな深刻にならなくてもいーじゃん?、なんて笑いながら、残りのビールに口をつけた。