第90章 【カンゲイ】
「はい、どうぞ?」
「あ、すみません、いただきます……」
英二くんにお茶を淹れてあげようと思ってたのに、何故かお父さんとお母さんの前に座り、私だけが日本茶を淹れて貰っている。
目の前に茶托と共に置かれた湯呑みを手にとると、フーっと少し冷まして、ツツっとすすり飲んだ。
美味しい……
日本茶の渋みのある良い香りが、口内から鼻腔を通って抜けていく。
基本的には紅茶やコーヒーを好んで飲んでいるけれど、日本茶もやっぱり美味しいな……
こんな時、改めて自分は日本人なんだなって、再確認してしまう。
それから、同じようにお茶を飲む英二くんのお父さんとお母さんに、チラッと視線を向ける。
食事の時も思ったけれど、改めて、この人が英二くんのお父さん……
新聞記者として、取材に行った先で英二くんに出会い、すぐに引き取りたいと考えて実行した人……
英二くんに生い立ちの秘密を打ち明けてもらった後、1人で図書館に赴き、過去の新聞を閲覧させてもらった。
英二くんに詳しい新聞社の名前は聞いていないから、手当り次第、彼に関する記事を読み漁った。
週刊誌ではないから事件の内容を淡々と書いている記事ばかりだったけど、やっぱりその扱いはとても大きくて……
それは当時、そうとうな社会問題となったであろうことは、容易に想像がついて……
英二くんのお父さんは、どうして英二くんを引き取ろうと思ったのだろう……
そりゃ、衝撃的な事件だっただろうし、新聞記者として目の当たりにしてしまえば、同情するのも当然かもしれない……
だけど、私がネコ丸を拾って育てているのとは訳が違う。
既に4人も実子がいる状態で、そう簡単に思い切れる問題ではないはずで……
それはその申し出を受け入れたお母さんや、ご家族の方全員に言えることで……
血の繋がりでもあれば別だけど、英二くん、他に身寄りはないって言ってたし……
そんなふうに思っていると、思いっきりお父さんと目が合って、恥ずかしくて慌てて俯いた。