第90章 【カンゲイ】
「あ、あの……、私、一度、英二くんのところに……」
「ええー、別にいいよ、あのバカは放っといて!」
「ほら、もう引き止めちゃ悪いでしょ!、ふたりの気持ちも考えてあげなよ?」
「まぁ、そうよね……仕方がないか……」
普通のアルバムを見た後、英二くんの卒アルをしばらく眺めながらお姉さんたちと楽しい話をしていたけれど、英二くんの様子も気になって、なんとか切り出し部屋を後にする。
……英二くん、何か飲みたいかも……?
英二くんの部屋に向かおうとして、ふとそう思って先に階段を降りキッチンへと向かった。
あ、でも、勝手に淹れるわけにいかないよね……?
考えたら当たり前のことなのに、本当、私、何やってるんだろ……
仕方がないから、そのまま英二くんの部屋へと戻ろうとしたところで、ふと気がついたリビングから微かに漏れる話し声……
あぁ、良かった……これで英二くんにお茶を淹れていける……
ホッとしながら許可をいただこうと近づいた。
「……英二も……」
「……ああ……」
英二くんの話……?、声をかけるまえに聞こえた英二くんの名前に思わず立ち止まると、ドアの隙間から英二くんのご両親が座っているのが見えた。
なんだか、凄く、落ち着いた雰囲気に、どうしよう、そうオロオロしてしまう。
でもこのままここで話を聞いているわけにもいかないし、英二くんにお茶は持って行ってあげたいし……
よし、そう意を決して、あの、すみません、そうリビングのドア越しに声をかけた。
「あら、小宮山さん、どうしたの?」
「はい、あの……英二くんに何かお茶を淹れてあげたくて……その……」
そんなのいいのに〜、あの子、飲みたきゃ勝手に飲むわよ!、なんてお母さんはケラケラ笑う。
それはそうかもしれないけれど、でも……、なんてまだ戸惑っていると、それより小宮山さん、ちょっと話さない?、そう言ってお母さんは、来い来いと私に手招きをした。