第90章 【カンゲイ】
そうだ!、そう突然、下のお姉さんがなにか思いついたような顔をして、パンっと両手を叩き立ち上がる。
「小宮山さん、アルバム、見る?、英二の、お母さんに借りてくるよ!」
英二くんのアルバム!?
は、はい!、そう思わず身を乗り出してしまい、恥ずかしくて慌てて小さくなる。
小宮山さんって、本当、可愛いー!、そうまた下のお姉さんに飛びつかれそうになり、だからやめなって!、なんて上のお姉さんがそれを制止する。
「あの、でも、英二くん、嫌っていうかもしれないですよね……」
「そんなの平気平気!、ついでだし英二の部屋から、卒アルも奪ってくるわ!」
落ち着くまもなく飛び出して行った下のお姉さんは、程なくしてバタバタと騒がしく戻ってくる。
ねーちゃん、いい加減に小宮山返せよっ!、そうお姉さんを追って来たらしい英二くんの声と、うるさいわね!、あんたに用はないの!、なんて彼を追い返すお姉さんの声……
下のお姉さんがドアを閉める直前、恨めしそうな英二くんと目が合って、ごめんなさい、そう心の中で謝りながら両手を合わせた。
そりゃ私だってもちろん英二くんと一緒にいたいけど、英二くんのご家族の誘いは無碍にはできないし、それにやっぱり、彼のアルバムが見てみたくて……
「ほら、小宮山さん、見て見て!」
英二くんのアルバム……
ずっと読みたかった本が手に入って、最初にページをめくる時と同じくらいドキドキしてる。
すーっと大きく深呼吸してから、ゆっくりと表紙を捲った。
目に飛び込んできたのは、不安げな顔で少しぎこちなく笑う小さな英二くん……
普通なら当然、最初のページは生まれたその日の赤ちゃんだろうけど、英二くんのアルバムは既に幼児であることに胸が締め付けられる。
英二くんの本当のお母さんは、英二くんの写真、撮ってなかったのかな……?
菊丸家に引き取られた時、確か英二くんの荷物はほんの少しだけって言っていた……
無かったから、もう幼児になってからの写真が一番前なんだろうけど……