第90章 【カンゲイ】
「……な……」
な……?
恐る恐る顔を上げると、下のお姉さんが固まったまま私を見ていて……
あ、あの……、そう私の問いかける声にハッとした顔をする。
「なんなの!?この娘!!」
そんな声をあげた下のお姉さんは、私に飛びつくように抱きついてくる。
突然の出来事に、いったい何が起こったのか理解できなくて……
なんなの?と言う割には、マイナス感情でないことだけは分かるんだけど……
「なんでこんなに可愛いの!?しっかりしてそうなくせに、ギャップ萌え!?」
もう、絶対、うちに嫁にきてー?、そう言って頭に思いっきり頬ずりされながら、ああ、これ、菊丸家の愛情表現……?、そう英二くんが大石くんに飛びついた時のことを思い出す。
「LOVE」だけじゃなく「LIKE」でも、全身で愛を表現するのは、英二くん特有かと思っていたけれど、お姉さんも同じなんだ……
「あ、あの、お姉さん、そればっかりは、英二くん次第ですので……その……」
「いやん、真面目に答えるところも可愛い〜〜〜!!!」
いや、薄々、冗談だった言うのは気がついていたけれど、もしかしたら、本気かもしれないと思って……
どうやら余計に気に入られてしまったらしく、全然、解放してもらえなくて、モウ、ドウニデモシテ状態でなされるがままになる。
いや、そんなに気に入ってくださっていることは、もちろん嬉しいんだけど……
「ほら、小宮山さん、困ってるから、そろそろ離してあげなよ?」
そんな上のお姉さんの制する声に、えー……、なんて不満げな顔をする下のお姉さんその様子が、英二くんとすごく重なって見える。
前に英二くんの家に来た時に、初めてお母さんにお会いしたときも思ったけれど、ああ、英二くんのご家族だなって……
血の繋がりなんてなくても(お母さんの時は養子だって知らなかったけど)仕草や雰囲気がそっくりだなって……
渋々と私から離れたお姉さんに苦笑いしながら、そんな風に思って心が暖かくなった。