第90章 【カンゲイ】
「ほら、あんたたち、いい加減にしなさいよ?、小宮山さん困ってるでしょ?……お母さんに言うよ?」
ずっと2人の言い争いを黙って見守っていた上のお姉さんが、静かに低い声を響かせる。
は、はひっ!、そう英二くんと下のお姉さんがビクッと肩を震わせて、それから青い顔でその場に正座する。
たった一言でその場をおさめてしまったのは、上のお姉さんの迫力か、お母さんへの恐怖心からか……
とにかく、そんなところに菊丸家の勢力図を感じて、くすくす笑った。
「で、でもさ?、小宮山、せっかくだからねーちゃんの気持ち、大切にしてやってよ?、サイズ的に何とかなるんならさ?」
そうウインクしながら英二くんが逃げるように部屋を出ていくと、ゴメンね?、バカな妹と弟で、そう言って上のお姉さんに謝られる。
いいえ、そんな……、そう返事をしながら、英二くんの言うことも最もだな……なんて、頭の中が冷静になっていく。
そうだよね……、あまり頑なに断り続けるのも、かえって失礼だよね……?
「じゃあ……ありがとうございます、大切に使わせていただきます」
下のお姉さんから制服をお借りすることにすると、いいの、いいの、どんどん汚して?、そう言ってお姉さんは嬉しそうに笑った。
「……そう言えば、小宮山さんは、その……英二の生い立ちのこと……知っているのよね?」
英二くんが持ってきてくれた布団を敷いていると、それを手伝ってくれていた上のお姉さんが伺うように問いかける。
あ、はい……教えてもらいました、そう少しためらいながら返事をする。
「英二がその事を話すなんて、よっぽど小宮山さんのこと信頼しているんだと思う……」
「そうそう、なにせあんなに執着している大五郎を貸せるくらいだしねー!」
この前の芽衣子って女とは違うわよ、そう下のお姉さんが口を滑らせ、こらっ!、なんて上のお姉さんがそれを叱りつける。
慌てて両手で口を塞いだ下のお姉さんは、ご、ごめん、そう気まずそうに謝った。