第90章 【カンゲイ】
「さ、これでおしまい!本当に助かったわ、ありがとう!」
最後のお皿を食器棚に片付けると、キレイに濯いで絞った布巾をかけながら、お母さんがそうお礼を言ってくれる。
食べ終わった時は、こんな大量の片付け、何時間かかるんだろう……?、そう正直、面食らっていたけれど、人手の多さと皆さんの手際の良さで、思ったほど時間はかからなかった。
「終わった!?んじゃ、小宮山、オレの部屋に行こっ♪」
「ダメよ、これから私たちの部屋にお布団敷くんだから!」
リビングでお父さんたちと一緒にテレビを見ながら、私のことを待っていてくれていた英二くんの前を、お姉さんたちに引きずられながら素通りする。
「あ、あの、英二くん、あとで……」
ぶー、そう不満げな顔をする英二くんに申し訳なく思いながらも、お姉さんたちについて行く。
部屋に案内されると、女の子二人部屋の華やかさに、姉妹っていいなぁ……そう思わずため息が溢れた。
「あ、ねぇ、小宮山さん、これなんだけどさ……」
そう言って下のお姉さんがクローゼットから取り出したのは、クリーニングの袋に入っている青春学園高等部のセーラー服……
不思議に思って首を傾げると、良かったら使って?、そう言ってお姉さんは私に差し出した。
「あ、え?、その……どうしてですか?」
意味がわからず、当然受け取れないでいる私に、ほら……英二、汚しちゃったんでしょ?、そうお姉さんは申し訳なさそうに眉を下げる。
ハッとして慌てて大きく両手を振る。
確かに英二くんが嘔吐した手で私にしがみついたから、制服はその時、汚れてしまったけれど、すぐに保健室で体操着に着替えて、お母さんに自宅に持って帰ってもらった。
きっともう洗ってくれているだろうし、頼まなくても染み抜きもしてくれただろうし、問題なく着れるはずで……
きっと思い出がたくさん詰まっている制服だもの……
私なんかが使っていいものじゃないよね……
本当に大丈夫ですから、そうゆっくりと首を振ってその申し出を断った。