第90章 【カンゲイ】
「にーちゃん!それ、オレのプリプリエビフライ!」
「うるせー、昔からうちは早い者勝ちって決まってんだよっ!」
「あんた達うるさいわよ!、小宮山さん、驚いているでしょ!」
いつものように下のにーちゃんとおかずの取り合いをしてると、いつものようにかーちゃんの激が飛ぶ。
いつもと違うのはそこに小宮山がいることで、小宮山は確かに菊丸家の食卓の様子に戸惑っていた。
「小宮山、こんなんで固まってたら、うちではなーんも食べられないぞ?、ほら、遠慮しないでどんどん食べなー?」
一人一人盛り付けられたメインのふわふわオムレツはともかく、手を伸ばして取り分ける大皿料理には、当然だけど小宮山はいっさい手をつけれていなくて、代わりにヒョイヒョイっと好きそうなものを取り分けていくと、自然とみんなの注目が集まり、すみません、そう恥ずかしそうにますます身体を縮こませる。
小宮山、絶対、泊まりに来たこと後悔してるだろうな……
そう、人見知りの激しい小宮山にとって、地獄のような時間であろうこの食卓を申し訳なく思う。
「……そういえば、小宮山さんのお布団だけど……うち、部屋が足らなくて客間がないのよ……」
「へ?、んなのいらないよん?オレのベッドで一緒に寝……」
「んなのダメに決まってるでしょ!小宮山さんは私たちの部屋!」
一緒に寝るから、そう言おうと思ったオレの言葉を、すごい勢いで下のねーちゃんが打ち消した。
なんでだよぅ、そう頬をふくらませると、あんた、また小宮山さんを襲うでしょ!、そうねーちゃんは恐ろしい顔をする。
「んなことするはずないじゃん!、みんないるんだよん?」
「どの口が言うのよ!どの口が!!」
さっきのを目撃されたあとじゃ、ぜんぜん説得力はなくて、確かに一緒に寝たら我慢できる自信もなくて、だいたい、芽衣子ちゃんとはヤっちゃったけど、なんて余計なことまで思い出して、慌てて苦い過去を振り払う。
「あの、もう、そのことは忘れてください……」
そんな会話に、小宮山は真っ赤な顔で俯いてしまったから、ハッとしたねーちゃんはバツ悪そうに謝った。