第89章 【カイホウ】
『……ふたりとも、まだ話は終わってないよ?』
突然響いた不二の声にハッとする。
そう言えば、すっかり忘れてた……って言ったら、あの恐ろしい笑顔で睨まれそうだけど、本当に不二の存在なんて頭から飛んでいて……
やべ、そう思いながら、放り投げた拍子でスピーカーに切り替わったであろう携帯に手を伸ばす。
『……小宮山さんも聞こえているよね?』
「あ、はい、不二くん、聞こえています、あの、先程は学園祭の後片付けもしないで帰ってしまって……」
『そんなことは何でもないよ、それより、もっと重要な話を……小宮山さんにも聞いてもらいたいんだ』
小宮山にも……?
設定を戻そうとした手を止め、不思議に思いながらその先の言葉を待つ。
私にもですか……?、そう小宮山も戸惑いの声を上げる。
『うん、二人にはね、ちゃんと自分の気持ちに素直になってほしいんだ』
「……でも、私、英二くんが鳴海さんを選んだ理由、すごく良くわかるんです……だから……」
『英二、小宮山さんも鳴海さんも身を引くってさ……結局、ひとりだね?』
そう言って不二がクスクス笑う。
相変わらず本題を言わずに遠回しに話を進めるその様子にイラッとして、いいからさっさと話せよ!、そう言葉の先を促した。
『ゴメン、ゴメン、鳴海さんなら桃に任せておけば大丈夫だよ』
「……桃に……?」
『うん、桃』
桃は確かに芽衣子ちゃんのことが好きだったけど、オレが付き合い出してからは、気まずくて、話しどころか顔も合わせていなくて……
そういや、さっき、保健室に桃いたっけ……?
無我夢中だったから、周りのことを気にかけている余裕なんかなくて、桃どころか、小宮山と不二以外は誰がいたのかすら思い出せなくて……
『桃、あの後、鳴海さんを追いかけてね、鳴海には俺がいるって、必死に訴えてたよ。その真剣な様子に彼女も少しは心を開いたように見えたけど……?』