第89章 【カイホウ】
思い出す幼い頃の記憶。
暗闇でずっと、ひたすら愛を求めて空を眺めた……
それに重なる芽衣子ちゃんの最後の寂しげな顔……
放っとけなくて、小宮山を裏切ってまで、なんとかしたいと思ったほどの……
「……芽衣子ちゃん、今頃、ひとりで泣いてるんじゃ……?」
思わず口に出した言葉にハッとして、それから身体を固まらせる。
気がついたら、さっきまで確かに寝ていたはずの小宮山が、オレの顔をジッと見ていた……
数秒、まさに時間が止まった。
しかも、良い意味じゃない。
たらり、汗がこめかみから流れ落ちるのと同時に、小宮山の瞳がゆらりと揺れる。
「あ、あの、ごめんなさい、私……やっぱり帰ります……」
小宮山!、慌てて携帯を放り投げ小宮山の腕をつかむ。
ビクッと震える細い身体……
なんで……?、そう問いかけたけど、そんなの聞かなくてもわかっている。
小宮山は、きっと見抜いたんだ……
オレの中に戻ってきた、芽衣子ちゃんへの同情心を……
だから、また保健室での時のように身を引こうとして……
小宮山はいつだって、そういうやつだから……
優しすぎるやつだから……
「だって……やっぱり……」
それ以上、言葉を出せないでいる小宮山に、帰んないでよ……?、そう言いそうになって、グッとその言葉を飲み込んだ。
だって、こんな気持ちのまま、一緒にいるわけにいかないじゃん……?
芽衣子ちゃんの事が心配になる度に、小宮山を傷つけるだけだから……
「……送ってくよ……」
「……ダメです、英二くん、まだ良くなってないんです……私なら平気ですから……」
無理に笑う小宮山……
やっと小宮山の笑顔を見られたのに、またこんな顔をさせてしまった……
送ってく、そうもう一度、繰り返す。
ちゃんと立ち上がり、名残惜しく思いながら小宮山の腕を離すと、小宮山は俯いたままカバンを手にする。
ゴメン、そう小さく謝ると、英二くん、そればっかり、そう言って小宮山は力なく笑った。