第89章 【カイホウ】
保健室での方が演技って……
それって、あの時のあの言葉の方がってことかよ……?
「な、何を根拠に……」
問いかける声が微かに震える。
不二のことだから、確信していないことは口にしないだろうから、その理由を聞かずにはいられなくて……
『跡部に聞いたよ、鳴海さんも認めたしね』
跡べーに……それに芽衣子ちゃんも認めたって……
じゃあ、本当に、保健室での方が演技……?
「なんで……演技なんか……」
『そんなの、決まってるだろ?、英二のためじゃないか』
オレのため……?、胸がドクンと大きく脈打った。
ああ、英二が気兼ねなく小宮山さんの元に戻れるように……、そう続ける不二の言葉に、そんな話なんか信じられるかよ、そう思う一方で、もし本当だったらと思うと胸がざわめいて……
何、言ってんだよ……、混乱する頭を抱えながら、そう何度も繰り返す。
しっかりしろよ!あの女は小宮山をあいつらに売った女なんだ!
なにも迷うことないじゃんか!!、そうブンブンと首を振ってそのざわめきを追い払う。
「だいたい、なんで不二が芽衣子ちゃんをかばうようなこと言うんだよ!小宮山があの女のせいでどんな目にあったか分かってんのかよ!」
『……うん、何があったかは小宮山さんからも直接聞いていたからね』
「じゃあ、なんで!?不二は頭に来ないのかよ!?小宮山のことを思ったら、あの女を許せるはずなんかないだろ!?」
『許せないよ……でも、僕は感謝もしているんだ……』
感謝……?、オレのその言葉に、うん、そう不二が静かに合図地を打つ。
ふざけんなよ!なんで感謝なんか出来んだよ!そう怒鳴りながら震える拳を握りしめる。
オレは絶対、感謝なんかしない!
例えオレのためにあんな演技までしたってのが本当だって、小宮山を苦しめたやつに感謝なんか……
絶対しない、けど……でも……
『……もう消えろ……二度と近寄んな……』
『分かってます……』
保健室での最後の言葉……
その時の芽衣子ちゃんの震える声……
必死に涙をこらえるその表情……