第89章 【カイホウ】
英二くんの部屋に来たのは、これで2回目……
あの時も英二くんが倒れて、心配する私を不二くんが連れてきてくれた。
まだセフレだったから戸惑っていたんだけど、英二くんのお母さんにあれよあれよという間に案内されて、予想通り、英二くんを怒らせちゃって……
『第一、学校でもちーっとも笑わないでさ、友達1人もいないなんて、小宮山、どっかおかしいんじゃないの?』
あの時、言われた言葉はもう今では完全に過去のこと……
あの時はすごく辛くて、でも精一杯平気なフリをして、なんとか笑顔を作ったけど涙が止まらなくて……
その時、英二くんが、抱いとけば?って大五郎を貸してくれた……
そっと大五郎を抱きしめると、ふわんと香る英二くんの香り……
「大五郎、英二くんのところに行こうね?」
そのまま立ち上がりベッドまで進むと、床に腰を下ろして英二くんにそっと寄り添う。
英二くんは私を必要としてくれているけれど、肝心なことはなにも言ってくれなくて……
しっかり手は握ってくれるけど、思いっきり抱きしめてもくれなくて……
英二くん、気にしてるんだよね……?
鳴海さんのことで責任を感じているんだよね……?
私は本当に何も気にしていないよ……?
だいたい、英二くんはなにも悪くないんだよ……?
英二くん……、ねえ、笑って……?
そんな辛そうな顔しないで……?
英二、くん……
薄暗い部屋の中、大五郎を抱えて英二くんに寄り添うと、その香りに包まれて途端に眠気が押し寄せる。
ダメ……眠っちゃったら、英二くんが起きた時に、笑っておはようって言ってあげれない……
そう思うんだけど、私も今日は色々あって、押し寄せた睡魔には逆らえそうになくて……
そのまま、微睡みの中へと落ちていった……