第89章 【カイホウ】
「それじゃ、英二のこと、よろしくね?、私、これから夕飯の支度があるから……」
「あ、はい、すみません、お手伝いもしなくて……」
いいのよ、英二の側にいてあげて?、そう言って英二くんのお母さんは、静かに扉を閉める。
また静かになった部屋で振り返ると目に止まる大五郎……
そっと近づき、久しぶりね、そう言ってその頭をゆっくりと2回撫でた。
今日、この部屋に来た時も、すぐに大五郎に気がついた。
真っ先に挨拶したかったんだけど、英二くんの気持ちを思ってしないでいたら、チラチラ視線を向けていたのがバレバレだったようで、なに遠慮してんの?って笑われた。
また私に大五郎を触らせてくれることが嬉しくて、まだ力のない笑顔だったけど、英二くんに少しずつ笑顔が戻ってきてくれたことにもホッとして、でもすぐにそれが辛そうな表情に戻ってしまうのが悲しくて……
「……英二くん、少し休んでください、大五郎、連れていきます?」
「いんや、小宮山がいい……こっち来て?」
ベッドに横になった英二くんが手を伸ばすから、はい、そう急いで近寄りその手を繋いだ。
ゴメン、そうまた謝る英二くんに、もう聞き飽きましたよ?、そう言ってふふっと笑った。
「小宮山……オレさ……」
「今はゆっくり休んでください、ずっと側に居ますから……」
「ん……ゴメ……少し、寝る……」
よほど身体が辛かったのか、ベッドに横になると英二くんはすぐに眠ってしまって……
寝息が定期的になったのを見計らって指を放すと、改めてぐるっと部屋の中を見回した。
壁に左側を預けてちょこんと座っている大五郎……
無造作に重ねられている大量の雑誌の山……
お世辞にも勉強しているとは言い難い机とその上のパソコン……
壁に沢山はられたアイドルのポスター……
前来たときはゆっくり見られなかったから、じっくりと眺めてしまう。
そのひとつひとつがまさに英二くんにピッタリで、胸がきゅっと高鳴った。