第89章 【カイホウ】
自分でも、なんて図々しいお願いをしているのか分かってた……
そして、それがとてつもなく無茶苦茶な申し出だってことも……
もしかしたら、英二くんのお母さんから、非常識な娘だって嫌悪感を持たれてしまうかもしれない。
今後、英二くんとよりを戻せることになっても、お付き合いを反対されてしまうかもしれない。
それでも、こんな状態の英二くんを、放っておくことなんて出来なくて……
お願いします、そう必死に頼みながらギュッと瞳を閉じてその返事を待った。
「あの……英二くんにはいつも娘がお世話になっております、璃音の母です」
微妙な空気が流れる中、ずっと黙っていたお母さんが英二くんのお母さんに頭を下げた。
こちらこそ、以前は息子がお留守の間に……なんて慌てて英二くんのお母さんも頭を下げる。
その展開に驚いて顔をあげると、お母さんは私の頭を撫でながら微笑んでいて、それから、また英二くんのお母さんに視線を戻す。
「不躾なお願いで申し訳ありませんが、もしご迷惑でなければ、娘の願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
甘いと笑われるかもしれませんが、今は2人の気持ちを優先させた方がいい気がして……、そう言って今度は英二くんに視線を向けた。
同じように振り返ると、英二くんはすごく苦しそうにしていて、あ!って慌てて駆け寄ると、その手を取って寄り添った。
また小さい声で「ゴメン」と謝る英二くんに「大丈夫ですよ」そう同じ返事を繰り返して……
「それじゃ、璃音、ご迷惑をおかけしないようにするのよ?」
「うん、ありがとう、お母さん……ごめんなさい、ワガママ言って……」
「そう思うなら間違ってもお料理のお手伝いなんかしないのよ?、あなただけじゃなく、お母さんまで恥かくんだから」
「……分かってるわよ……」
手伝った方が恥をかくってどうい事?、そう情けなく思いなら、車の後部座席に英二くんと並んで座る。
最後に失礼なことを言われた気もしないでもないけれど、私の気持ちを尊重してくれたお母さんと、快く受け入れてくれた英二くんのお母さんには、心から感謝をする。