第88章 【キクマルサン】
小宮山先輩の腕の中で幸せそうに笑う英二先輩……
私は、見ることが出来なかった、英二先輩の本当に安心したような……
『あきらめるな!』
ううん、あきらめるわ……
もう分かってしまったから……
私は、先輩を頼りにするだけだったけど、小宮山先輩は英二先輩とお互い頼りあっていた……
依存するだけの私と、支え合っている小宮山先輩じゃ、最初から勝ち目なんかなかったのよ……
「でも……これでまた1人ぼっちになってしまったわ……」
ひとしずく、零れ落ちた涙がまた頬を濡らした……
「俺がいるだろ!?」
突然、肩を掴まれて、思いっきり振り向かされる。
え?、そう驚いて目を見開くと、そこにいたのは、真剣な顔で私を見る桃城くん……
「鳴海には俺がいるだろ!?、俺が!、これからは俺が鳴海を一人になんかしねーから!」
その勢いと真剣な表情に、思わず圧倒されてしまう。
桃城くんは英二先輩に近づこうとする私をいつも邪魔してきて……
だから私に気があるのはバレバレで……
だけど、こんな風にはっきりとその胸の内を口にされたのは初めてで……
……桃城くん……
ギリリ、私の肩を掴む桃城くんの手に力が入る。
痛い、顔を歪めて視線を反らせば、目に泊まるのは彼の手に握られたスポーツタオル……
私を追いかけてきたとき、冷やした方がいいって濡らしてきてくれた……
「痛い、離して……」
「あ、わ、悪ぃ……俺、つい、力が入っちまって……」
パッと離された肩を擦りながら、この人はあんな卑劣なことをした私の本性を知っても、まだ私に好意を抱いてくれているんだろうか……そう思ったら泣きそうになる。
「……イヤよ」
ポツリと呟いた私の言葉に、へ?って桃城くんが聞き返すから、桃城くんじゃイヤ、そうもう1度、はっきりと繰り返す。
鳴海〜、そうさっきまでの真剣なものとは大違いのその情けない顔と声に、思わず緩みそうになった頬を引き締める。