第88章 【キクマルサン】
「……英二先輩以外は誰だってイヤ……だけど……」
これはありがたく使わせてもらうわ……、そう言って桃城くんの手からスポーツタオルを受け取ると、そっと両頬を包んで歩き出す。
「あ、ああ……!俺、家まで送るよ!」
「……すごく古くてビックリするわよ……」
「家なんて雨風しのげりゃ上等だぜ!」
「……これだから、無頓着な人は嫌い」
「げっ、あ、いや、まぁ、清潔に越したことはねぇーよな、うん!」
すっかりぬるくなっているそのタオルからは、桃城くんの香りがして……
その香りをかいでいたら、色々な想いから涙が溢れてきて……
慌てて気付かれないように、そのタオルで涙を隠す。
『あきらめるな!』
もう1度、脳内で響いた英二先輩の声……
ああ、そう言えば……
あの時、私たち、英二先輩に一緒に励まされたんだったわね……
タオルの隙間から桃城くんの顔をちらっと伺いみる。
桃城くんはあの試合の時のように、晴れ晴れとした顔をしていて……
その笑顔は、私の心を少しだけ解してくれたようで……
背中からそんな私たちを見送る不二先輩の、クスクスという笑い声が聞こえた____