第88章 【キクマルサン】
「ふ、不二先輩!、あの、鳴海は、その、鳴海なりに反省してるんで……だから……」
その不二先輩の胡散臭い笑顔に、桃城くんが慌てて走りよる。
不二先輩は自分の大切な仲間を傷つける人を絶対許さないらしい……
噂通りの人だとしたら、私になにも言わないわけがなくて……
桃城くんのこの慌てぶりも、同じことが頭によぎっているからに違いなくて……
「……桃城くん、別にいいわよ、自分がしたこと分かってるから……どうぞ停学でも退学でも……」
「いや、鳴海、不二先輩はそんな甘いもんじゃないんだよ!、このままじゃ、鳴海の命の危険が……」
命の危険って、そんな大袈裟な……、そう思ったけれど、桃城くんのその慌てぶりは尋常じゃなくて……
まぁ、今は死にたいくらい落ち込んでるから、本当に殺されたって文句は言わないけれど……
そんな私たちに、命の危険って、桃、酷いなぁ……、そう不二先輩はフフッと笑い、その笑みに桃城くんは身体をビクつかせた。
「別に停学や退学にしたくて来たわけじゃないよ、だいたい僕にそんな権利もないしね」
「……だったら何を……?」
「言ったよね?、ぜんぶ、じゃないよねって」
不二先輩は相変わらずの笑顔で、そうポケットから携帯電話を取りだす。
そう言えば、確かに最初、ぜんぶじゃないって……
ハッとして不二先輩の顔を見ると、先輩は私が気がついたことを察したようで、ごめんね、知り合いに確認させてもらったよ、そう言って申し訳なさそうに笑顔を曇らせた。
「……跡部グループの景吾さんですね……?」
「うん……悪いとは思ったけどね、どっちが本当の演技か知りたかったんだ」
そう……あの人、案外、お喋りだからな……
有名ですからね、もはや鳴海グループの実権は、今じゃ後妻が握ってるって……、そう自嘲しながら呟くと、そんな私と不二先輩の顔を交互に見た桃城くんが、どういうことっすか?、そう怪訝そうな顔で問いかけた。