第88章 【キクマルサン】
「なぁ……鳴海……さっきの話、どこまで本当だ?」
少しの沈黙のあと、ゆっくりと桃城くんが問いかける……
ぜんぶ本当よ……、そう前を見たまま返事をする……
そう、ぜんぶ本当……
継母に家を乗っ取られて、その息子にいいようにされて、お父さまに捨てられて、小宮山先輩に無言電話をかけて、それから……陥れた……
英二先輩と一緒にいるためには、どうしても邪魔だった……
許せなかった、不二先輩の彼女だと思っていたから……
だけど、嫌でも気づいてしまった……
英二先輩が、どれほど小宮山先輩を必要としているのか……
そして小宮山先輩も、本当は不二先輩ではなく、英二先輩を想っていることも……
それでも手放したくなくて、いつか好きになってもらえるって信じたくて、ふたりの気持ちに気が付かないふりをして……
そして、自分の罪からも目を逸らした……
ズキンと痛む胸をグッと抑える。
嫉妬と憎悪に駆られて、私は許されない事をした……
そんな私が、幸せになれるはずがないじゃない……
「……なんで、んなことしたんだよ……いくら英二先輩を好きだからって……」
「桃城くんには関係ないでしょ……」
「そりゃ、そうだけどよ……」
そう好きだったから……
だから……手放した……
あんなに想いあってるくせに、それでも、私と一緒にいるから許してって、そんなふうに言われたら……
私と一緒にいることで、英二先輩が苦しむだけって分かったら……
諦めるしか、ないじゃない……
「ぜんぶ、じゃないよね?」
突然聞こえた声に驚いて振り返る。
そこに立っていたのは不二先輩……
不二先輩!、どうしたんすか!?、そう桃城くんもびっくりして声を上げる。
あぁ……英二先輩と小宮山先輩を傷つけたから……
大切な仲間を傷つけた私に、あの不二先輩が黙っているわけがなくて、きっと何かしらの制裁を加えにきたはずで……
その何を考えているかよく分からない、本音を隠した笑顔を前に身構えた。