第88章 【キクマルサン】
「……痛かったろ?赤くなってるぜ……ったく、市川先輩、容赦ねーなぁ、容赦ねーよ」
言われた途端、ジンジンと痛む両頬……
小宮山先輩にしたことを暴露した私に、市川先輩が平手打ちをした。
そっと頬に触れる……胸の痛みの方が大きくて、こっちの痛みなんて気が付かなかったけど……
「……馬鹿じゃないの……?、さっきの私の話、聞いていたんでしょ……?」
そう、馬鹿じゃないの……?
あの私の話を聞いて、それでもわざわざ追いかけてきて、教室に戻って通学カバンを持ってきただけじゃなく、タオルまで濡らしてきてくれたなんて……
「あー……聞いていたけどよ……」
俺、本当に馬鹿だからよくわかんなかったぜ、そう続けた桃城くんに、はあ〜?、と呆れながらため息をつくと、カバンの方だけ受け取り歩き出す。
見たまんまでしょ?もう構わないで、そう冷たく言い放って……
「……しっかし、すげー変わりようだよなぁ……鳴海、キャラ変わってるぜ?」
ずっと冷たい態度をとっていると言うのに、桃城くんは全然こたえていないのか、平然とした顔で私の隣を歩き出す。
本当、なんなの……?、そう思いながらも、何となく私もそのまま並んで歩き続ける。
「当たり前でしょ……頑張って可愛く見せてたんだから……」
そう、頑張っていた、英二先輩の好みに近づけるように……
元気で明るい子、一緒にいて笑いあえる子……
見た目はともかく、性格はすっかりひねくれてしまっていたから、出来るだけ可愛く思ってもらえるよう、必死に笑顔を振りまいて……
理由はどうあれ、せっかく青学に通えることになったんだから、少しでも英二先輩に気に入って貰えるように……
そのせいで、余計な男たちからも、気に入られることになっちゃったけど……
チラリと桃城くんの顔に視線を向けると、パチっと彼と目が合って、な、なんだよ、そう桃城くんは頬を染めながら、慌てて視線をおよがせた。