第88章 【キクマルサン】
「……芽衣子、最近、学校はどうだ?勉強は順調か?」
底なしの沼でもがき続け、高校進学の準備も始まった中等部3年の秋頃、夕食の席でお父さまがそう私に話しかけた。
あの女と結婚したときに反抗してから、お父さまに話しかけられることなんてなかなか無かったから、突然のその出来事にどうしたらいいか戸惑ってしまう。
「はい、お父さま……先日のテストの成績も良かったですし、問題なく高等部に進学できますわ」
「そうか……もうお前も高校生になるんだな……どうりで最近、顔つきが死んだ妻に似てきたはずだ……」
嬉しかった。
久しぶりに話しかけられたことも、私の進学のことを気にかけてくれたことも……
そして、なにより私を見て亡くなったお母さまを思い出してくれたことが一番……
久しぶりに幸せな気持ちに満たされながら、もっと頑張ろう、出来るだけ優秀な成績で卒業、入学しよう、そう自室で勉強に励んでいた。
ガチャリ、ノックもせずにドアが開いてビクリと肩が震えた。
こんな失礼なやつ、この家には一人しかいない……
どうして?、だって今夜はお父さまとあの女が、出かける日じゃないはずなのに……!
そんな私の驚く顔を見ながら、なんでだよって顔してるな?、そうあの男はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「ママたちなら出かけたぜ?、おまえのお父さまが昔の女の話題なんか出すから、ママ怒っちゃってよー、真っ青になって必死に機嫌とってやんの」
バカな男だよな、また高いもの買わされるぜ?、そう言ってゲラゲラと下品に笑うその男に、いつも以上に嫌悪感が一杯になって……
またなの……?
あの女はことある事にお父さまに高い買い物をさせて……
似合いもしないくせに、高級ブランドや宝石、高級外車……本当に色々なものを買わせていて……
それから、お父さまの目を盗んで、ホストクラブに通っては、夜明けまで散財することも珍しくなく……
そうやって家を空ける度に、私はこの男に好きなようにされ続けて……