第88章 【キクマルサン】
下の方に座っているのはあの有名な跡部財閥の景吾さん。
前にどこかのパーティーで顔を合わせたことがある。
これと言って話はしなかったけど、学校での派手なパフォーマンスとは違い、とても礼儀正しく大人顔負けの応対をしていた。
その近くには正レギュラーの面々……
うちの学校の男子テニス部と言ったら相当目立つから、全く興味無いと言ったって、顔と名前くらいは頭に入っていて……
コートに入っている忍足先輩と向日先輩は、相変わらず自信満々な様子で、その相手選手と言ったら、まるで完全アウェーのこの状況に、心細そうな顔で辺りを見回していた。
そりゃ、そうだよね……
さすがにこれって、マナー違反じゃないの……?
我が校ながら、この応援には引くものがあり、なんだか相手チームが気の毒になってしまう。
「あれ?、青学、菊丸さんなのにゴールデンペアじゃない!?」
「……ゴールデンペア?」
「そう、青学の菊丸さんのダブルスの相手はもうずっと大石さんって決まってるのに……何かあったのかな?」
わざわざ試合会場まで応援に来ようと言うだけあって、友人は相手選手のことにも詳しいらしく、不安げな顔をしている彼らを見ながらそう教えてくれた。
「菊丸さんってどっち……?」
「髪の長い、外ハネの方!」
別に興味はなかった。
自分の学校のテニス部にすら興味無いんだから、他校のことまでなんて、もっとどうでも良かったんだけど……
でも、その時は何となく気になって、そう自分から問いかけた。
「まぁ、いいや、これでダブルス2はもう勝ったも同然ね!」
「ずいぶん自信満々じゃない……」
「だって、ゴールデンペアならともかく、菊丸さんと2年生の即席ペアじゃね~!、忍足先輩といえば、氷帝の天才で曲者と呼ばれる男だし、向日先輩のアクロバティックプレイは菊丸さんだって敵うはずないし!」