第88章 【キクマルサン】
「嫌なものは嫌よ、理屈じゃないの」
「そんなこと言わなで付き合ってよ!、関東大会よ!、正レギュラーそろい踏みよ!、しかも相手はあの青春学園よ!」
正レギュラーと言われても、もともと男子テニス部に興味の無い私はその試合の重要性なんて全くわからなくて……
あんた、そんなことも知らないで、よく氷帝の制服着てられるわね!なんて言われても、やっぱり興味無いものは興味なくて……
「でも、いいよ、付き合っても。どうせなんの予定もないし」
あの家にいたって楽しいことなんてないし、あの男がいつ来るかと思うと心から落ち着くことも出来ないし、だったら外に出かけていたほうが気分転換になっていいだろうし……
「やった!、んじゃ、明日、会場で待ち合わせね!」
男子テニス部の応援か……
青学の手塚さんも素敵なんだよねー、なんて言いながら、嬉しそうに手を振って走り去る友人の背中を見送ると、重い足取りで自宅へとむかう。
今夜もあの男は部屋に来るのだろうか……
まぁ、別に、もうどうでもいいんだけど、もうそんな諦めの感情が私の心を支配して……
「芽衣子ちゃーん、今夜も来てやったぞ、嬉しいだろ?、すっかり素直になったもんなぁ~?」
いつの間にかその男の言われるがまま、抵抗することをやめていた……
「氷帝!!氷帝!!」
友人に連れられて到着した試合会場では、既にコートをぐるりと囲み、うちの生徒達の氷帝コールが上がっていた。
その中心にはもうダブルス2の選手たちが入っていて、うわっ、ギリギリ!、そう友人が慌てて同じように声を張りあげる。
ほら、芽衣子も一緒に!、なんて言ってくる友人の声に、絶対イヤ……、そう思いながら、階段の上の方……比較的空いているあたりに座り、会場の様子を観察した。