第88章 【キクマルサン】
「ほら、お兄さまって呼べよ!、呼んで、はやく挿れてってオネダリしてみろよ!」
「……誰が死んでもいうもんですか!」
「ああ?、テメェ、自分の立場、分かってんのかよ!」
それから、あの男はお父さまとあの女が家を空ける夜は、私の部屋に来て無理やり私の身体を求めるようになった。
もちろん、なんの自衛もしなかった訳じゃないけれど、バレてもいいのか?、そう脅されると従うしかなくて……
殴られて、縛られて、いっぱい痛いことされて、時には、あの男が連れてきた友人たちの相手までさせられて……
いつまで続くかわからない苦痛に、もう生きている意味なんかない、そう本気で自分の人生に絶望した。
お母さまのところに行けたら、どんなに楽だろうか、そう思わずにはいられなくて……
いいようにされた身体をシャワーで洗い流しながら、じっとカミソリを眺めることが増えていった。
ねえ、お母さま、私、そっちに行ってもいい……?
何度もそう天国のお母さまに話しかけては涙を流した。
「ねぇ、芽衣子!、明日、なんか用事ある?、男子テニス部の応援に行かない?」
毎日に絶望しつつも、やっぱり死ぬ勇気なんてないまま、ただ心を殺して耐え続けた7月のある日、友人からそんな誘いを受けた。
「……イヤよ、私、男子なんて大っ嫌いだもの」
「またそんな事言って!、芽衣子、そんなに可愛いくてしょっちゅう告白されてるのに、どうしてそんなに男嫌いなの?」
この間もバスケ部のエース振っちゃって、勿体無い!そう言って友人が頬を膨らませた。
男嫌いなのは、言わずもがな、あの男とすっかり変わってしまったお父さまの影響だけど、そんなこと当然友人にも言えるはずなくて、どうしても!、そう無理やり話を終わらせた。
そんな私に、全く、ハイスペック揃いの氷帝に通ってるのに、もったいないー、そう友人はますます呆れた顔をして、はぁ……と大きなため息をついた。