第88章 【キクマルサン】
イヤァ!!誰か助けて!!、必死に叫び声を上げたけれど、うるせぇ!そう怒鳴られて、思い切りベッドに押し倒されて、頬を殴られて……
あまりの痛さと恐怖で、もう声も出せなくて……
ただひたすら、この男が満足するまで、我慢し続けるしかなくて……
「誰にもチクんなよ?、言ったらお前にとっても、鳴海家にとっても、いい事なんかないってことくらい、賢いお嬢様には分かるよなぁ?」
ただ声を殺して泣くしかなかった……
その男の言う通りで……
義理とはいえ鳴海グループの子息が義妹を、なんてそんな恰好のネタ、マスコミが黙っているはずがなくて……
「お嬢さま!その頬、どうなさったんですか!?」
「……何でもないの、少しぶつけただけよ、それより……ごめんなさい、シーツ、汚しちゃって……昨晩、急に始まったものだから……」
次の日、あの男のせいで血のついたシーツを、お手伝いさんの元に持っていくと、私の腫れた頬を見た彼女が驚いた声を上げる。
そんなぶつけたくらいで……、そう眉をひそめたけれど、それから、私のシーツを見て青い顔をする。
「お嬢さま……もしや、昨夜……!」
「……何も知らない方が身のためよ……分かるでしょう?」
「ですが!、それではお嬢さまが……」
「私なら大丈夫……湿布薬、ちょうだい?」
誰も巻き込むわけにはいかなかった。
自分自身や家のためだけじゃなく、お屋敷で働いてくれている人たちのためにも、ううん、鳴海グループの社員、子会社、協力会社……
このスキャンダルがどれだけ多くの人の人生を狂わせるかと思うと、誰にも相談できず1人で耐えるしかなかった。