第88章 【キクマルサン】
「お父さま!執事さんはおじいさまの代からずっと鳴海家に仕えてくださっているのよ!どうしてそれくらいで辞めさせるの!?」
「だからこそ、主人の命令に逆らうなんて許されないことだ。使用人の長がそれでは他に示しがつかないからな」
……お父さまはこんな簡単なことですら、正しい判断ができなくなってるの?
この出来事で、もう誰もこの女の傍若無人な振る舞いに、意見するものはいなくなった。
私以外、そう、誰も……
コンコン
それはお父さまとあの女が家をあけた晩のことだった。
夕飯も済ませて、寝支度も整えて、家政婦さんたちにも「今夜はもう大丈夫」と挨拶を済ませた後、ゆっくり寛いでいるところに部屋のドアが2回ノックされた。
家政婦さんの誰かかな?、そう思いながら「はい、どうぞ?」なんてなにも考えずに返事をした。
でも警戒しなければいけなかったんだ……
もうこの家には、他人が入り込んでいたのだから……
「……芽衣子ちゃん、なーにやってんの?」
予想外の声に驚いて振り返ると、そこに居たのはにやけ顔で私を見ているあの女の息子……
どうして!?、慌ててソファから立ち上がって睨みつけた。
「そんな警戒することないじゃん?、俺はただ、兄と妹の親睦を深めようと思ってさ」
「私はそんなの深めたくありません、出ていってください!」
「そんな冷たいこと言わないでさぁ……せっかく兄妹になったんだから仲良くしようぜ?」
逃げ道なんか無かった。
唯一の入り口にはその男がいて、慌てて携帯に手を伸ばしたけれど、思い切り払われて床に転がり落ちてしまって、そのまま奥へと追い詰められて……
「イヤ!、なにするの!」
「はぁ、たまんねーなぁ、同じ屋根の下にこんな可愛い義理の妹がいて、襲うなって方が間違ってんだよ!」
「こんなことしてただで済むと思ってるの?お父さまに言って警察に……」
「お前の言うことなんか、あの色ボケ親父が信じるとでも思ってんのかよ?ママの言いなりじゃねーか」