第88章 【キクマルサン】
「……ここはお母さまの部屋なの、はやく元に戻して出ていって!」
「でも今日からは私の部屋になったのよ、こんないい部屋を遊ばせとくなんてもったいないじゃない!」
「なんてこと……!、いったい誰の許しを得てそんなこと言ってるの!?」
「あら、ちゃんとあなたのお父さまから許可は頂いたわ。何でも私の思い通りしていいって言ってくれてるのよ」
どういうこと!?、そう書斎に飛び込んでお父さまに抗議すると、やっぱりお父さまには私のワガママだって叱られた。
新しいお母さまは、お前が思い出に囚われて前に進めないから心配してくれてるんだよって、どうしてその優しい気持ちが分からないんだって、いい加減にしなさいって……
この女は、尤もらしいことを言って、お父さまを抱え込んで……
「芽衣子ちゃんのお部屋も今の部屋から少し遠くした方がいいでしょうね。今のところじゃ、あの部屋に近いですし、気持ちの切り替えができないうちは辛いでしょう?」
「ほら、お母さまはこんなにお前のことを考えてくれてるんだ、素直にお母さまに甘えなさい」
お父さまの向こうで、自分の思い通りにことが進んだことをほくそ笑むその女と、私のことなんか全然見てくれなくなったお父さま……
もう何を言っても無駄だって、この家は終わりだって、北側の日当たりの悪い新しい部屋に案内されると、壁しか見えない窓から外を眺めて涙を流した。
「申し訳ありません、お嬢さま……」
「あなたが謝ることなんかないわ……私は大丈夫……それより、本当にごめんなさい、私のせいで……」
あの女は長年この家に仕えていた執事さんをあっさり辞めさせた。
私の部屋をここに移動させるように、との命令を、申し訳ありませんが、それはお受けできません、そう拒んだのが理由だった。