第88章 【キクマルサン】
「芽衣子、お前はいつからそんなワガママになったんだ!、お母さまとお兄さまに失礼だろう!、謝りなさい!」
「……いいんですのよ、多感なお年頃ですもの、ビックリしちゃったんですよ。大丈夫、すぐに仲良くなれますわ」
だけど父は私の希望は聞いてくれなかった。
それどころか、私のことをワガママだって一括すると、あからさまに不機嫌な顔をして、バン!と大きな音を立てて部屋から出て行った。
いつだって温厚なお父さまに、そんな態度を取られたことが信じられなくて、ただ呆然とその背中を見送った。
「本当、お嬢様はワガママに育てられて嫌だわ、これからは私がしっかり目を光らせないと……今まで通り何でも思い通りになると思ったら大間違いですからね!」
「ねぇ、ママー、使用人は僕の自由にしていいんだよねー?」
「えぇ、もちろんよ。でもこれからはママじゃなくお母さまだって言ったでしょ?あなたはこの鳴海グループの後継者になったんですからね、相応しい言葉遣いをしなさい?」
「はい、お母さま」
お父さまがいなくなった途端、急に態度を変えたその人たちは、我が物顔で執事さんや家政婦さんたちを使い出した。
皆さん、しっかりしたプロで嫌な顔ひとつせずに命令をきくから、その女達はますます図に乗りだして……
認めない、絶対、認めないんだから!
亡くなったお母さまの部屋に飛び込むと、そのままベッドに頬を埋めて泣き叫んだ……
「お待たせして申し訳ございません、お嬢様」
「別に構わないけど……時間に遅れるなんて珍しいわね、混んでいたの?」
「いえ……その、お屋敷の方で少々手間取りまして……」
ある日、学校が終わる時間になっても運転手さんが迎えに来なくて、いつも時間に正確なのに珍しいな?って思って訳を聞いたんだけどはっきり答えてもらえなくて、嫌な予感がして胸がざわめいた。