第88章 【キクマルサン】
本当は同情だって別に良かった……
最初から、先輩は私に同情して一緒にいてくれることくらい、分かってた……
それでも……
大好きな先輩と一緒にいられるのなら、それでもいいって……
本当はそう思っていたの……
初めて英二先輩に出会ったのは、まだ氷帝学園に通う中学2年生の頃だった。
「芽衣子、紹介しよう、新しいお母さまとお兄さまだよ」
「よろしくね、芽衣子ちゃん、私には息子しかいないから、娘が出来て嬉しいわ、仲良くしましょうね」
「こんな可愛い女の子が僕の妹になるなんて、嬉しいなぁ〜!」
幼い頃に大好きなお母さまを亡くして、それでも優しいお父さまと沢山の執事さんや家政婦さんたちに囲まれて、何不自由なく毎日を幸せに過ごしていたあの頃……
突然、お父さまは、知らない女の人と少し歳上の男の子をお屋敷に連れて来て、そう私に紹介した。
新しい……お母さまとお兄さま……?
気に入らなかった。
その濃いだけの下品な化粧も、全然着慣れてなそうなブランド物の着こなしも、私に向けられた嘘くさい笑顔も……
第一、まだ私の中には大好きなお母さまの存在が大きく残っていて……
新しいお母さまなんて、ぜったい受け入れたくなくて、ましてや、同じ年頃の男の子と一緒に暮らすなんて、そんなこと考えられなくて……
「お父さま、私、ぜったい嫌よ!新しいお母さまなんて!兄弟だっていらないから!」
私のお母さまは亡くなったお母さまだけなんだから!、そう初めから全力でその人たちを拒否した。
お父さまなら、私の気持ちを優先してくれると信じて疑わなかった。
いつだって「芽衣子が一番の宝物だよ」って、そう笑ってくれていたから……