第88章 【キクマルサン】
「ご迷惑をお掛けしました、失礼します」
英二先輩が倒れるきっかけになった親子が帰ると、すこしザワつく保健室内。
英二、大丈夫かな、そう河村先輩が心配そうに呟いて、小宮山さんが一緒だ、問題ないだろう、そう乾先輩が確信しているように言い切った。
小宮山先輩は当然のように、テニス部の人たちに受け入れられていて……
私は何度頼んだって、英二先輩は私をこの中には立ち入らせてくれないのに……
またイライラする胸の奥……
いや、絶対、別れないんだから、改めて自分に言い聞かせると、カーテンを開けようと手にかけた。
「小宮山……あの、さ……」
開けようとしたその瞬間、中から響いた英二先輩の低い声……
そのいつもと違う声の雰囲気に、カーテンを開けるタイミングを逃して立ち止まり、保健室内のみんなも固唾を飲んだ。
「……オレ、さ……都合いい時ばっかで、ほんと、悪いんだけどさ……」
「……鳴海さん、呼んであげてください……きっと心配してます……」
「ゴメン……オレ、芽衣子ちゃんのこと……放っとけないんだ……」
たっぷりと間を開けて決意した二人の会話……
ああ、良かった……やっぱり英二先輩は私と一緒にいてくれるのね!
小宮山先輩もバカよね、さっき、私にあんな目で挑戦してきたのに、結局、身を引くんじゃない!
ばっかみたい、闘うなら最後までとことんやりなさいよ?
甘いのよ、ほんと、どうしても手にしたければ、何があったって絶対引いちゃ、ダメなのよ!
そんなふうに考えられたら良かったのに……
そうすれば、今まで通り、英二先輩とずっと一緒にいられたはずなのに……
「……なんなの……?」
自分でも気が付かないうちに怒鳴り込んでいて、ゴメン、もう裏切らないから許してって謝る英二先輩に、だから、なんなの?、そうもう一度繰り返していた。