第88章 【キクマルサン】
「……もう消えろ……二度と近寄んな……」
先輩の冷たい声が耳の奥で何度も繰り返す……
バカね、こうなるとが分かっていて暴露したんじゃない……
なのに、どうして泣く必要があるの……?
保健室をでた途端、溢れて止まらなくなった涙……
何度も手で拭って、泣き崩れまいと必死に気持ちを強く持つ。
先輩が倒れて、驚いてどうしたらいいか分からなくて……
私は拒まれたのに、小宮山先輩は求められて、2人気持ちを確かめあうその姿に、ショックが大きくて……
「鳴海……とりあえず、向こう行こうぜ?」
桃城くんが気まずそうに促したけど、絶対イヤ、そう言ってそれを拒んだ。
どうして私が引かなきゃいけないの……?、そう思いながら、ずっと2人から視線をそらさなかった。
「うわっ、ミスコンとった直後にあれはないわー!惨めすぎるでしょ……」
「え?え?不二くんはどうなるの!?あの女よりそっちの方が気になるんだけど!」
保健室へと向かう先輩達を見送る私の耳に、そんな周りの噂話が聞こえてきた。
ちらっと視線を向けると、やばって顔で目を逸らすその様子に、聞こえてるんだけど、そう思いながら下唇をかんだ。
「……ねぇ、桃城くん、どういう事?」
「あ、あれはー……その、なんだ、あれだ!……その……」
はっきりしないその物言いにイラッとして、もういいわ、直接、確かめるから、そう言って私も保健室に向かった。
いや、だから、やめた方がいいぜ、なんて慌てる桃城くんを無視して、勢いよく保健室のドアを開けた。
そこには不二先輩を始めとしたテニス部の人たち……
それから、小宮山先輩を心配して駆けつけたであろう市川先輩と、小宮山先輩のお母さん……
先ほど、小宮山先輩に水を手渡して、それから英二先輩に優しく微笑んでいた……
優しくて、穏やかで、上品で、すごく素敵なその姿に、なんとなく亡くなったお母さまを思い出して胸が苦しくなった。