第87章 【ホットケナイ】
「……バッカじゃないの?、あんな演技に騙されて!」
顔を上げた鳴海さんは、雰囲気がガラッと変わっていた。
その様子に、静まり返っていた保健室内がざわめき出す。
「……演技……?」
目を見開いた英二くんが震える声でそう問いかける。
そうよ、いままでのは全部、演技、そう鳴海さんは口角を上げて歪んだ笑みを浮かべる。
「当たり前じゃないですか、あんな出来すぎた悲劇なんかある訳ないでしょ?、あの男も、あのアパートも、全部お父さまにオネダリして用意してもらったんですよ?」
最初から全部計算だったんです、そう言ってクスクス笑う鳴海さんに、嘘、だよな……?、そう英二くんが顔をひきつらせる。
「本当ですよー……小宮山先輩、私、小宮山先輩に言いましたよね?、周りから固めていくって」
うん、聞いた……
学園祭の準備期間、生徒会執行部に向かう途中で呼び止められて……
英二くんと上手くいくように協力してって言われて、鳴海さんは積極的だから必要ないじゃないですかって断る私に、こんどは周りから固めていこうと思ってって……
「ああ言えば、先輩、私のこと、可哀想に思って優しくしてくれるかなー?と思ったら、本当に彼氏になってくれるんですもん」
先輩、たーんじゅん、そう言ってクスクス笑う鳴海さんに、英二くんの握った拳が震えだす。
あ、怒っちゃいました?、そう鳴海さんは、挑発するような視線のまま、こんなに上手くいくなんて思わなかった、そう言ってまた笑う。
「あ、もちろん、バイト先が同じだったのも偶然じゃないですよ?、あとつけてバイト先調べて潜り込んで、店長にお願いして一緒に帰れるようにしてもらって……」
それから……、そう言って鳴海さんは私の顔に視線を移す。
目が合った瞬間、ゾクリと身体が震えて動けなくなる。
そんな私に、彼女はさらに笑顔を歪ませる。
「……無言電話も、カラオケ店のクーポンチラシも、あの人たちに先輩の画像を渡したのも、全部私がやったんですよ……?」