第87章 【ホットケナイ】
「……だから、なんなの……私のことなんか、好きじゃないくせに!」
鳴海さんのその訴えに、英二くんが言葉をつまらせる。
あ、いや、でも、オレ、そう何とか話そうとするんだけど、鳴海さんの厳しい顔に何も言えなくて……
「あんたもよ!英二先輩が好きなくせに、なんで私を呼んでやれとかいうの!?」
すぐに鳴海さんの怒りの矛先は私に向かったけれど、やっぱり私も何も言えなくて……
だって、鳴海さんの言うことはもっともで、私だって、逆の立場だったら、はい、そうですか、なんて簡単に納得出来きるはずなくて……
「……なんなの、放っとけないって……そうやって、ふたりして、私のこと同情して……」
同情……?、意味がわからず首を傾げると、違う!、そう声を上げて英二くんが否定する。
だけど、すぐに気まずそうな顔で俯くと、違うんだ……、そうもう一度、今度は消えそうな声で呟いた。
何が違うっていうの?、そう言って鳴海さんが英二くんを睨みつける。
震える拳を握りしめ、下唇をかんで必死に涙を堪えながら……
「同情以外なにものでもないでしょ!?、継母に家を乗っ取られて、その息子に何年も身体をいいようにされて、挙句の果てにお父さまに捨てられた惨めな私に同情したから、私と一緒にいるって言ったんでしょ!?」
その衝撃的な言葉に目を見開いた。
だって、そんな……、口を手のひらで覆うと、信じられなくて英二くんに視線を向ける。
だけど英二くんは俯いたまま何も言わなくて……
ううん、英二くんだけじゃない、保健室内でこの修羅場を見守っていたテニス部の人たちも、お母さんも、あの美沙ですら、言葉を失っていて……
ただ、不二くんだけは、全てを知っていたような顔をしていたけれど……
「なによ……同情なんか……して欲しくないわよ……」
ポツリと呟いたその声は、多分、私にしか聞こえていない……
すごく辛そうで、すごく悲しそうで、それでいて、すごく苦しそうな……
どうしようもなく胸が締め付けられて、仕方がない声だった……