第86章 【トクベツナバショ】
「璃音、お水、買ってきたわよ」
私の腕の中で苦しそうに息をしている英二くんを抱きしめていると、近くの自販機から買ってきてくれたのか、お母さんがペットボトルの水を差し出してくれる。
ありがとう、そうお礼を言いながら受け取ると、ハンカチに染み込ませて彼の汚れた口元を綺麗にする。
私のその行動に、英二くんはハッとして、それから、ゴメン、そう顔を真っ青にさせるから、大丈夫ですよ、そう言って首を横に振る。
「でも、小宮山の制服まで汚れて……」
「こんなの洗えばすぐ落ちますよ……それよりもう大丈夫ですか?、もしまだ気持ち悪いなら、全部出しちゃった方が楽になりますよ?」
本当、制服なんて洗えば済む話……
そんなことより英二くんの体調の方がずっと心配……
私なら大丈夫ですから……、そう言いながら手のひらも洗い流して綺麗にすると、英二くんの背中をゆっくりとさする。
ん、もうへーき……そう英二くんは申し訳なさそうに目を伏せて、それから、チラッとお母さんに視線を向けた。
「あ、英二くん、えっと……母です」
こんな形で紹介することになるとは思わなかったな……
苦笑いしながらお母さんを紹介すると、やっぱり、そうバツが悪そうな顔をした英二くんが、急いで私から離れようとする。
あ、いいのよ、楽にしてて?、そうお母さんは英二くんの肩に手を置いてそれを制止した。
少し戸惑いながら、英二くんがもう1度私の身体に身を預けてくれる……
苦しそうな息遣いが、私の腕の中でだんだん穏やかになっていく……
もうそれだけで、心が満たされて……
「……お母さん、さっきの、訂正させて……?」
不思議そうに顔を上げる英二くん、それから、訂正?、そうお母さんがゆっくりと返事をする。
「うん……私の一番特別な場所は……ここ」
英二くんと一緒にいれば、何処だって、そこが私の特別な場所になるの……
私の、一番特別な場所は、英二くんの腕の中____