第86章 【トクベツナバショ】
うっ……!
堪えきれず、吐き気を催し慌ててうずくまる。
ゲホッ、ゲホッ、咳き込んで逆流した胃の内容物が、口元を抑えた指の間からポタポタとこぼれ落ちる。
あっ……!、驚いた芽衣子ちゃんがオレの肩から手を離し、数歩後退りをした。
「え?、吐いちゃった?」
「ちょっと、英二、大丈夫かな?」
遠巻きに眺めて心配そうに見ている生徒達……
すげー迷惑なことなのに、情けないけれど、どうしても身体が動かなくて……
「……あ、せ、先輩、あの、これ……」
「……いや、ほんと、いいからさ……芽衣子ちゃん、汚れるから離れてたほう……いい……」
我に返った芽衣子ちゃんが慌ててハンカチを差し出したけど、とても受け取れるはずなくて、ううん、受け取りたくなくて……
ただ、ひたすら押しつぶされそうな不安感に身体を縮めて耐え続けるうちに、だんだんと意識が遠のいていく……
ダメだ、意識、失ったら、余計、迷惑かける……
家族にも心配かけるし……みんなにも……
だけど薄れゆく意識には抵抗できなくて、そのまま瞳を閉じる。
『あの、苦しいときは、呼んでくださいね……?』
瞼を閉じた暗闇の中、すぐに浮かんでくるのは小宮山の笑顔……
小宮山、助けてよ……?
やっぱオレ、小宮山じゃなきゃ、ダメなんだよ……
もういくら呼んだって、来てくれないのは分かってんのに、それでも求めずにはいられなくて……
小宮山、オレのこと、好き……?
オレ、小宮山が大好きなんだ……
本当に……大好きなんだ……
頼むから、もう一度だけ聞かせてよ……?
オレが好きだって、あの笑顔で……
聞かせてよ……?