第86章 【トクベツナバショ】
「先輩、助けてあげて……?、アレじゃ、あの子、可哀想……」
その男の子を心配する芽衣子ちゃんの声にハッとして、あ、オレは、ムリ……そう何とか声を振り絞る。
芽衣子ちゃんの言うことはもっともなんだけど……
頭ではわかっているんだけれど、身体がいうことを聞かなくて……
だけど、芽衣子ちゃんには、オレのその震える声は届かなかったようで、どんどんと親子連れの方に行ってしまう。
だから、オレは声なんかかけたくないんだって……
バクバクと警報を鳴らしつづける心臓……
先輩、早くー、そう向こうを見たままオレを呼ぶ声に、なんとか震える足で前に進む……
声をかける……?
ダメだ、そんなことしたら……
だって後から「あんたのせいで」って、あの子が余計酷い目に合わされんじゃん……?
あの時だってそうだった……
隣のおばさんの通報で、児童相談所のおねーさんが初めて尋ねてきてくれたあの時……
おねーさんが帰った後、オレが悪いって、オレのせいだって、さんざんあの女から罵声と平手を浴びせられた……
「何その顔!あんた自分が悪いって思ってないでしょ!」
『……英二、なによ、その目……』
「本当、可愛げ無いんだから!何でいつもそうなのよ!」
『ほんと、可愛くない……!』
「もうあんたなんかいらない!産むんじゃなかった!」
『だから邪魔なのよ……消えて?お願いだから……』
そのまま、あの女はオレの前から消えたんだ……
「……テメェがいい加減にしろよ?」
気がつくと先を歩いていた芽衣子ちゃんを追い越して、そうその母親を蔑んでいた。
ザワッと当たりがさっきまでと違うざわめきを起こす。
それはオレの本性なんてなんも知らない生徒達の、当然とも言える驚きの声……
今まで家族に心配かけないように、徹底的に隠してきたけれど……
バレたら困んのに……誤魔化さなきゃいけないのに……
でも、もう、自分を抑えることが出来なくて……