第86章 【トクベツナバショ】
「ヤダ!、まだ帰りたくない!!」
「ダメよ、夕方には帰るって約束だったでしょ?、ほら、もう行くよ?」
「ヤダー!、最後まで遊ぶんだー!」
食べ終わったかき氷の容器をリサイクルステーションに捨てに行くと、ふと耳に届いたそんな会話。
声色と会話の内容から言って、まだ幼い男の子とその母親。
ちらりと視線を送ると、ヤダヤダヤダヤダ!そう手足をばたつかせた男の子が地面に寝転んでいる。
そろそろ怒られるぞー?、なんて微笑ましく眺めていると、その瞬間、母親の顔つきがガラリと変わった。
「いい加減にしなさいよ!!」
母親の怒鳴り声に、顔をこわばらせた男の子が慌てて立ち上がる。
ドクン____
心の奥底から沸き起こる不安感……
なんだよ、コレ、慌ててグッと身体を抱えて縮こまる。
こんなの、よく見る光景じゃん……?
それは、ときどき遭遇する日常の一コマ。
ワガママを言った子どもを母親が怒るなんてよくある普通の……
普段、スーパーなんかで見かけても、別になんとも思わないのに……
「あんたはどうしてママのいうことが聞けないの!?」
「ごめんなさい!ママ、ごめんなさい!」
男の子の身体を揺すりながら怒鳴りつける母親と、必死に謝る男の子のその様子に、恐怖と不安が全身を包み込む。
ダメだ、これ以上、ここにいちゃ……
そう頭ではわかってんのに、身体は太く重い鎖で縛り付けられたように、そこから逃げ出すことも出来なくて……
その母親の剣幕に、ザワザワと騒ぎ出す周辺の生徒達。
なにあれ、可哀想……、そう芽衣子ちゃんも怪訝そうな顔で親子連れを見ている。
「せっかく連れてきてあげたのに!」
「なんであんたはそうやって怒らせるようなことばっかするの!」
「この前も、その前も、同じことの繰り返しじゃないの!」
次々の繰り返される母親の罵声は興奮度を増していって……
それと反比例するように、子どもはすっかり萎縮してしまっているようで……