第86章 【トクベツナバショ】
ミスコンの表彰式が終わり、みんなの祝福する声に笑顔で応え続けると、さすがにその数の多さに疲れてきて、芽衣子ちゃんと2人、人気ないベンチに腰掛ける。
手にはどこかのクラスの模擬店で買って来たシャリシャリカキ氷。
もうカキ氷って季節じゃないけれど、真冬でもない限りお祭りでは定番で……
オレの大好物のイチゴ味、練乳たっぷりのところをパクッと頬張ると、んまーい、そう思わず頬が緩んでしまい、先輩って本当にかき氷が好きなんですね、なんて言って芽衣子ちゃんがくすくす笑う。
「先輩、本当にありがとうございました」
「へ?、オレ、何もしてないよん?、逆に大遅刻しちゃって……」
「それはもういいんです、先輩、間に合ってくれたし、それに、グランプリ取れたの、先輩のおかげですから……」
先輩と付き合えたことで、注目集まってたんですもん……、そう言ってもう一度、芽衣子ちゃんはお礼を言う。
そう言えば芽衣子ちゃん、オレが遅れた理由、小宮山が関係しているのかって聞いてきたな……
小宮山が失敗したたこ焼きをなんとか売りきって、ダッシュで駆けつけたミスコンのステージの上、クラスの模擬店がトラブって遅れた、そう言い訳したオレに怪訝そうな顔で芽衣子ちゃんが問いかけた。
今まで小宮山への想いはずっと心の奥底に封印してきて、芽衣子ちゃんに悟られないようにしてきたつもりだけれど……
前に教室で小宮山を抱きしめてるところを目撃されたし、もしたしたら、気付かれてんのかな……
レモン味のかき氷をすくって食べる芽衣子ちゃんの横顔を、気まずく思いながらチラッと見ると、パチリとおもいっきり目が合って、ヤベって思って慌てて視線をそらす。
「先輩、どうしたんですか?」
「あ、いや、それ、美味しそーだなーって……」
苦笑いで話を誤魔化すと、食べます?、そう言って芽衣子ちゃんがスプーンをオレの口元にむける。
複雑な想いを胸に抱きながら、身体を伸ばして口に含むと、人工的なレモンの風味が口いっぱいに広がった。