第86章 【トクベツナバショ】
「そう、ここが璃音の一番の特別な場所なの……」
体育館裏の小さなスペースに到着すると、図書室かと思ったら……そう言いながら、お母さんが辺りを見回す。
図書室ももちろん好きだけど、一番はここ……そう私も同じように視線を移動させる。
ずっと一人、お昼休みをここで過ごしていた。
時々、英二くんが来てくれるようになって、でも鳴海さんと英二くんの思い出の場所にもなって、辛い場面を目撃してしまって……
だけど、私が辛い時、ここに美沙や不二くんが慰めに来てくれた。
黙って私の涙が落ち着くまで、隣に座ってくれていた。
やっぱり、ここは、私にとって、大好きな場所……
「お母さん、あのね……私、英二くんに振られたんだ……」
いつもの茂みの中、お母さんと肩を並べて座ると、空を仰ぎながらポツリと呟いた。
学園内を見て回ると、どこに行っても先ほどのミス青学の話題で持ちきりで……
お母さんにも絶対聞こえているはずなのに、そんな素振り全然見せなくて……
本当にいつもだけど、何も聞かずに私のことを見守ってくれるお母さんだから、私は自分の気持ちを隠さず話したくなって……
そんな私の告白に、そうなの……、そうお母さんは小さく相づちを打った。
「英二くん……、あのミス青学の子と付き合い出して……すごく辛かったけど、でも、どうしょうもないことだからって自分に言い聞かせて……」
「……うん、そうね……」
「だけど、全然、忘れられなくて……だって、英二くん、別れてからも私が困ってると、必ず助けに来てくれて……」
そう、必ず助けに来てくれた……
さっきも、あのカラオケ店でも……
以前、空港で私を助けてくれた時と同じように、必死に駆けつけてくれたの……
先ほど、英二くんに掴まれた手首をそっと握りしめる。
「……きっと、英二くんは璃音のこと、すごく大切に思ってくれているのね……」
ん、私もそう思う……、そう呟くと空を仰ぐ。
秋空の空はいつもと変わらず、大きく私を包み込んでくれていた。