第86章 【トクベツナバショ】
「そうだ、璃音、当番、私が変わるから、お母さんと学園祭回ってきたら?」
「……そうですね、すみません、よろしくお願いします」
たこ焼き屋の当番を変わってくれると言う美沙の好意に素直に甘えて、お母さんと学園祭を見て回る。
折角の自由時間を潰してしまって申し訳ないなっても思ったんだけど、火傷もしちゃったし、足でまといにしかならなそうで……
「本当に凄いわねー、去年は来れなかったから来てみて良かったわ」
「そう言えば、どうして来ること教えてくれなかったの?、急に来るからビックリしたじゃない……」
「だって直前に思いついたんだもの、今年は璃音、友達もできたし、充実している学園生活が見れるんじゃないかって思ったら、居てもたってもいられなくて……」
「すみませんね、今まで友達いなくて」
苦笑いしながら学園内を案内しながら歩いていると、もしかして小宮山さんのお母さん!?、なんて声をかけてくれる知人もいて……
その度にお母さんは嬉しそうに挨拶していて……
さっきはせっかく来てくれたのに、英二くんと鳴海さんのミスコンの現場を見せちゃって、また心配かけたことを心苦しく思っていたから、少しは安心させることが出来て良かった……、そう嬉しそうなお母さんの笑顔を見ていると、私も嬉しく思った。
一通り模擬店を回った後、他にどこか行ってみたいところある?、そう聞いた私に、そうね……、そう少し考えたお母さんは、璃音の一番特別な場所に行きたいわ、なんて言って笑う。
一番特別な場所……
真っ先に思い浮かんだのは、もちろんあの体育館裏の小さなスペース……
それと同時に頭をよぎる苦い思い出……
少し悩んでから、ん、分かった……、そう言って心を決める。
やっぱりお母さんにも、自分の心にも、嘘はつきたくない……
そうもう一度大きく息を吸って、ゆっくりとあの体育館裏へと足を運んだ。