第85章 【マドノムコウ】
「あ、だってさ、せっかく小宮山さんが頑張ったのに、ハズレって言い方、なんか悪いじゃん?」
慌ててフォローしたオレに、英二、珍しく気が利いてるー!、なんてクラスメイトたちが失礼なことを言って笑う。
オレにとっては大当たりだよ、そう心の中で呟きながら、笑顔で客引きの声を張り上げた。
「ほい、200円ね、ロシアンたこ焼き、今ので完売だよん!」
最後の一個を売りきると、んじゃ、オレ、行くからさ、そう言って脱いで避けていた上着を肩に引っ掛ける。
さっきから何度も鳴っていたLINEはもう鳴らなくて、さんざん呼び出されていたミスコンの放送は、とうとう開始を告げるものに変わっていた。
「だからさっきから、もう行けって何度も言ってんじゃん!芽衣子ちゃん、泣いてんじゃねーの?」
「お前ならギリギリ間に合うかもしんねーぞ!、急げ!」
もう他の候補者のエスコートが始まってる……
さすがにヤバイよな、そう焦りながら、上着を羽織って必死にメイン会場へと走る。
芽衣子ちゃんのことを忘れてたわけじゃないんだけど、こんな大舞台で彼氏に連絡つかないなんて、どんだけ恥かかせるかってことも、ちゃんと分かってはいたんだけど、それでも小宮山のことが放っておけなくて……
本当はクラスメイトに任せて、すぐに芽衣子ちゃんのところに行けば良かったんだろうけど、どうしても小宮山の為に最後までオレの手で何とかしてやりたくて……
そんなの、オレの完全な自己満足に過ぎないけどさ……
「続きまして、エントリーナンバー5番、今回、唯一の一年生ファイナリストにして大本命の呼び声高いこの人!、鳴海芽衣子さん!」
……残念ながらエスコート役の菊丸英二くんは急用で、そう司会進行の生徒が口にした瞬間、裏に回ってちゃ間に合わないと、正面からステージ上に飛び乗った。
会場中のみんなが驚いてみる中、ごめーん、遅れちった、そう悪びれず芽衣子ちゃんの元へと駆け寄ると、一人で心細そうにしていた芽衣子ちゃんが目を見開いて、それから安心したように頬を緩ませる。