第85章 【マドノムコウ】
「あの、それって____?」
「市川、小宮山を保健室に連れてってよ、オレ、模擬店のほう行くからさ……」
「う、うん……」
分かっていたけど……
やっぱりこのままではいられなくて……
オレの言葉の意味を確かめようとする小宮山を市川に託す。
ゆっくりと離す小宮山の手……
名残惜しくて一瞬躊躇う指先……
♪、再度、胸のポケットでなったLINEがオレを催促する。
分かってるって……
ちゃんと間に合わせるからさ……
小宮山の手を離すと、あとはもう振り返らずクラスのブースに戻る。
ミスコンの前に、どうしても小宮山の作ったタコ焼きを売りきらないといけなくて……
じゃないと小宮山が、ずっと責任を感じて心を痛め続けるから……
「コレ、捨てなくていいって、なんで?、どうしょうもないじゃん……」
「ん……ちょっとオレに考えがあってさ……」
クラスに戻ると集まってくるみんなに構わずに、小宮山のタコ焼きを一つつまんで口に放り込む。
黒焦げのそれは見た目通りとんでもなく苦くて、でも確かに小宮山の味がして、懐かしくて胸がいっぱいになる。
「お前、よく食えるな……つうか、いいのかよ、ミスコン始まんだろ?」
「まだダイジョーブだって、それより新しいタコ焼き焼けた!?」
本当だったら、どんなに時間をかけたって、全部、オレが食べてしまいたい。
たった一つだって、他のやつになんか勿体なくてやりたくない。
だけど、オレが買い占めたら、それこそ小宮山が気にするかんね……
もう1個だけ、そう噛みしめるように小宮山の味を堪能すると、新しく焼いたタコ焼きに交ぜて適当にパックに詰めていく。
何やってんだよ、そうクラスメイトたちが慌てるから、お前らだってやったことあんじゃん?、ロシアンたこ焼き、そう言ってウインクすると、あ!ってみんなの顔が明るくなる。
「英二、よく思いついたなー!、でもコレ、ハズレに当たったら最悪だろ!」
そう笑うクラスメイトの声に、ピクッと頬を引き攣らせる。
こっちが当たり、そう思わずムキになって小宮山の方を指さすと、みんなが不思議そうな顔をした。