第85章 【マドノムコウ】
ちょい待ち……
あの究極の不器用な小宮山が、こんな大きな鉄板でたこ焼きを焼いたんだ……
気がついた瞬間、胸に広がる大きなざわめき、ハッとして小宮山の手に視線を向ける。
小宮山の家に泊まり込んでいた時、ホットプレートでお好み焼きを作った時があって……
出来ないくせに「少しでも上手になりたいから」と何度もひっくり返したがって、その度にプレートに触れて涙目になっていた。
普段の料理の時だって、鍋やフライパンにうっかり触れたり、包丁で悪戦苦闘して、指を絆創膏だらけにしてたり……
そんな小宮山のことだから、絶対、どこか火傷してるに決まっていて……
案の定、小宮山の指先は赤くなっていて、でもこの状況に誰も、小宮山本人ですら気がついていなくて……
「って、だから英二、ミスコン……」
「ちょっちゴメン、今、それどころじゃない……」
それどころじゃって、お前……、掛けられるそんな声を無視して、クラスメイトを押しのけると一直線に進む。
小宮山の元に……
うずくまって泣いている、凛とした普段の学校での姿とは程遠い、脆い小宮山の所に……
「小宮山、立って」
火傷している手の手首をしっかりと握りしめた。
驚いて顔を上げた小宮山と目が合って、目が合ったことにドキッとして、それが泣き顔な事に胸が痛んで……
ダメだ、感傷的になってる場合じゃない、今は小宮山の火傷が最優先。
小宮山の手を掴んだまま、新しいたこ焼きを焼くよう指示を出すと、オレのその行動に戸惑う周りの声も、市川の咎める視線も、それからミスコンの呼び出し放送やLINEも、全部無視して小宮山を連れ出した。
「離して……!」
ただ驚いていた小宮山が我に返ったのか、慌ててオレの手を振り払おうとする。
でもそんなことは予想していたから、しっかり握ってそれを拒む。
小宮山はイヤかも知んないけどさ……
でも、今、この手を離すわけにはいかないんだ……