第85章 【マドノムコウ】
「ちょっと、何があったのさ!?」
「ゲホッ、ゲホッ……あ、英二……?」
慌てて飛び込んだクラス模擬店の中はすごい煙で……
だけど顔面蒼白のオレとは対照的に、振り返ったクラスメイトの反応は割と悠長で、とりあえず火事ではなさそうでホッと胸をなでおろす。
煙を仰いで模擬店の外に逃がしなら、何があったんだよ、そうよく辺りを確認すると、目に飛び込んできたのは鉄板いっぱいに並んだ黒焦げのたこ焼き……
これって……、そう目を見開くオレの耳に、小宮山と市川の言い争う声が聞こえてくる。
「学園祭って誰かの失敗を人に押し付けるものじゃないでしょ?、みんなで協力しあって成功も失敗も分かち合うものでしょ?」
「だったら、どうするんですか?、私がダメにした材料費だけで売り上げは大打撃です。そんなの、私、嫌なんです!」
その会話で、全てを理解した気がした。
この黒焦げは小宮山の失敗作で、きっと責任を感じて弁償するって言い出して、それを市川が咎めたってところだろう……
責任感が強く真面目で頑固な小宮山と、曲がったことが大嫌いで自分の信念を絶対貫く市川は、普段の性格は全然違うのに、こういう所はそっくりで……
基本的価値観が同じだから気が合うんだろうけど、多分、こうなったらきっと2人とも後には引かなくて……
「コレ、璃音がおもいっきり失敗しちゃって……それでいつの間にか美沙と璃音、言い争いになっちゃって……」
状況を説明してくれたクラスメイトの声に、やっぱり……、そうハァーっと大きくため息をつく。
だいたい、どうして小宮山がたこ焼き焼く羽目になったんだよ……
あんなに隠したがっていた究極の不器用と料理音痴の才能を、ここまで披露する羽目になったのは、ちゃんとした理由があるはずで……
そんでもって、こうなった以上、売り上げにプラスにならないかぎり、小宮山は、絶対、引こうとはしないはずで……