第85章 【マドノムコウ】
「お、英二!いよいよミスコンか!?頑張れよー!」
「オレはエスコートするだけだけどねー、でも投票よろしく~♪」
アチコチからかけられるそんな声に笑顔で答えながら、中庭のメイン会場へと向かう。
芽衣子ちゃんを大切にすると決めてエスコート役を引き受けた時から、この時が来るのは分かりきっていて、小宮山への想いを封じ込めれば、もう自分がすることは決まっていて……
さっきから何度も流れているミスコンの放送を聴きながら、早めに行って準備が終わった芽衣子ちゃんを出迎えようと、会場に向かう足を速める。
「たこ焼きー、たこ焼きいかがっすかー!?、ネコ耳の可愛い女生徒たちが心を込めて焼き上げましたよー!」
ふと聞こえたクラス模擬店の客引きの声。
気がつくと模擬店のすぐ近くまで来ていて、やべ、このまま進んだら小宮山に見られるかもしんないよな……、そう慌てて遠回りしようと方向転換する。
「……え?、なに!?」
立ち去る直前、そう耳に届いたざわめき声……
くんっ、焦げ臭い香りが鼻を突く……
なんだよ……?、不思議に思って振り返ると、目に飛び込んできたのは、クラス模擬店の屋台からモクモクと上がる黒い煙……
「なに?、もしかして火事!?」
「ちょっと、やばくない!?、職員室に連絡する?」
辺りのそんな騒ぐ声に、サーッと血の気が引いていく。
あそこには、今、確実に小宮山がいるはずで……
もしあの煙が本当に火事で、小宮山が巻き込まれていたりしたら……、そう思ったらガクガクと全身が震えて、とても冷静ではいられなくて……
……小宮山!!
気がつくと芽衣子ちゃんが待っている事だとか、自分の格好だとか、そんなことは頭からすっかりどこかへ飛んでいって、ただ小宮山の安否だけが心配で、必死にクラスのブースへ向かって走り出した。